トヨタの社長、豊田章男氏がアメリカの公聴会に出席したニュース。

あの論議好きで、そのくせかなり恣意的な議論にもなりがちなアメリカで、損せずに立ち回りできるのか、かなり心配してみていたのでありますが、いやー、なかなか大した対応でしたなぁ。
冒頭で自分の意志や方針に関してはテキストの読み上げとはいえ、ちゃんと英語で発話し、公聴会ではしっかりとデキる通訳をつけてポイントを外さずに答えるという形。

しかも、公聴会後のアメリカのディーラー向けの記者会見では、応援してくれた米国内トヨタディーラーに向けて、またまた読み上げとは言うものの英語で発話し、しかも「応援ありがとうございます」のところで涙ぐむというオマケまでついた。

ほぼ完璧なのではないか?という気がしましたな。

多分、バックには、かなりデキるコーポレートコミュニケーションのコーディネーターがついてると思いますけど、最善の策は取ったということでしょうね。

いやまぁ、トヨタという会社自体は全然好きじゃないんですけど、さすがにこういう対応はうまいなぁと舌を巻かざるを得ないです。

やはり、この会社は「現実対処能力」が高い会社なんだなぁというのが僕の感想です。

「現実対処能力」ということで言えば、まずプリウスという「ハイブリット」なクルマ自体が「現実対処能力」のかたまりですしね。

いま、自動車の世界は電気自動車への流れがどんどん加速しているわけです。
で、その流れの中でもっとも問題なのは、従来のガソリンエンジンというもの自体が、かなりデメリットの多い、「お荷物な技術」になりつつある、ということなわけです。

いま電気自動車を作って売ってるメーカーは、それこそ小さな企業でベンチャーでやってるようなところだったりするんですね。とくにアメリカは。もう、ガソリン車のようにシャーシだクランクだギアだとやっている時代じゃないんです。そんな技術は、もういらない。ガソリンエンジンの電子スロットルなんて、それこそ「前時代の遺物」に今後はなっていくんでしょう。

しかし、トヨタは大企業ですごくたくさんの下請け企業も抱えているわけですから、その影響力を考えれば、いきなり電気自動車を出すわけにはいかない。だからプリウスのように電気とガソリンの両方を折半したようなクルマを販売して、下請け企業のゆるやかな切り捨ても含めたソフトランディングを図っているということも言えるわけです。

ガソリンスタンドの整備やら、修理工場の人のスキルのレベルなどなど、クルマというものは技術だけでは「現実的な利便性」が提供できにくいものなわけですから、ハイブリッドという発想はそういう環境も含めた「トヨタの解」なんだろうとは思うわけです。

そういう意味でプリウスというクルマは「現実対処」の見事な解答と言えます。で、実際それがよく売れているのだから、大したものではあります。
(でも僕は、大きくは電気自動車+自転車というのが、今後のクルマの大きなトレンドだと思いますけどね。まぁ、それはそれとして。)

こういう事を考え合わせると、今回のトヨタバッシングは、電気自動車を作っている新興勢力や、今後次々に現れるであろう電気自動車開発のベンチャー企業創出を目指すような一派と、市場のキャッチアップに追いつけなかったアメリカの自動車メーカーとかがともに手を組んで、市場をハイブリッドから電気自動車に転換させたいという思惑もあったんじゃないかなぁと僕は思ってるわけです。ハイブリッド車なんて、ガソリン車と電気自動車の両方を複雑に組合わせる方式ですから、ものすごく手間ですからね。それこそトヨタくらいしか作れない車なんじゃないかな?と。新興勢力は、そういうところには追いつけないわけですから。

「なら、電気自動車市場で、一から勝負だ。市場の刷新だ。」

と、向こうのメーカーは決めたんじゃないでしょうかね。そんな気がします。なんせ、オバマ政権は「Buy America」ですからね。国内企業優先という考え方ですから。(日本もBuy Japanをもっとやるべきだと思うのだけど。)

しかし、トヨタもアメリカのトヨタは、すでにアメリカの企業に近いくらいまでアメリカに根付いてますし、そういう「現実対処」というのもトヨタは的確にやってるよなぁと、これまた感心してしまうわけです。

トヨタが「現実対処」の企業だなぁというのはそういう意味で、よくも悪くも、とにかく現実対処はすぐれているよなと思わざるを得ないのであります。
で、それはそれとして、企業の方針そのものはあんまり好きではないんだけれども、でもやっぱりアメリカの公聴会に自ら出席した豊田章男氏にはエールを送りたいとは思うんですよねぇ。なかなか大したもんだ、っちゅうことです。

それともう一つ言うなら、なんだかんだ言っても、やっぱりアメリカのマスコミはちゃんとバランス良く報道してるらしいぞ、ということですわ。
日本の新聞やテレビみたいに、一斉に同じ事を言ったりはしてないという感じはありますな。
日本のマスコミは、本当にもう、全然「多様性」がなくなってしまって、政府の役人のペーパーをそのまま垂れ流してるだけの単なる「御用メディア」に成り下がってますからなぁ。
まだ、アメリカの方がはるかにマシという感じはあります。

とまぁ、ほめるべきはほめておいて。

で、それはそれとして、それでもやっぱり、大きくは自動車の大きな流れは「もう、ガソリン車ではない。」ということなんですね。つまり、

●ハイブリッドでも、もう古い。

ということです。で、今回のバッシングの技術に関しても電気とガソリンの切り替えに関する制御の問題で、正直、

●もう、そんな技術、どうでもええやん。

という気がしてます。

やっぱり面白いのは、前に、ここの日記でも紹介した電気自動車エリーカを作った清水教授の話でして、

「みんな勝ち」の未来へ急発進! 時速370kmの電気自動車
エリーカ開発の 清水浩 慶應義塾大学教授インタビュー
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090819/202831/

これを読むと「電気自動車、すげぇ!」と思わざるを得ないのです。

たとえば、加速時の回転制御の直進性とか考えると、圧倒的に電気自動車が効率が良いということはすぐにわかるんですよね。

電気モーターだと、加速する場合には電力を上げればそれに沿って1対1でモーターの回転も上がっていきます。だからそれをベースに各種の制御を行えば良いだけですから、シンプルにクルマの設計ができるわけです。

しかしガソリンエンジンだと、エンジンパワーをギアを使ったりなんだかんだと制御しながら、低速域から高速域へとつなぐなどの微調整が、まず最初に必要なわけです。加速をどう「パワーと速度の一対一対応」しているかのような形に整えるか?というところから設計していかないといけないわけです。クルマは必ず低速域から高速域へと移行していくわけですから。

だから、この勝負、最初から電気モーターの勝ちなんですよ。

で、なにより、清水教授の話で「ふへー!そうだったのか!」とびっくりしたのは、エネルギー効率の問題なんですね。

電気自動車がいくら家庭用電源で走るからと言っても、クルマはガソリンを直接燃やしているのだし、送電ロスを考えれば、電気自動車もガソリン車もエネルギー効率はさして差がないのだろうと思ってたんですが、なんのなんの。

火力発電所からクルマの走行までの(石油からクルマ走行までの)エネルギー効率は電気自動車の場合は38%なんだそうです。6割くらいは送電とかのロスで失われるってことですね。

しかし、ガソリン車の場合は、ガソリンから走行に対するエネルギー効率は、なんとたったの8%なんだそうです。9割がた、ムダにガソリンを燃やしてるだけだったんですね。

この話には驚かされました。

つまりは、エンジンのパワーを最適化するために、クランクやらシャフトやらギアやらを、ああでもない、こうでもないと組合わせてやってるけれども、それらの工程自体が摩擦やら熱やら、ありとあらゆる「ムダ」をまき散らす工程そのものになっているということな訳です。

なんせ、清水教授の作った「エリーカ」はタイヤの中にモーターを入れて速度コントロールしてますからね。で、電圧を上げれば回転数が一対一で上がっていくわけですから、加速コントロールもラクラクなわけですよ。

今回のプリウスの「急加速・急発進」とか、そういう問題自体が無意味化されてしまうわけです。

そういう意味で行くと、ガソリン車の仕組みや文化を残していこうという発想自体が実は問題をはらんでいるという側面もありますから、なかなかに難しい話だよなぁとは思うのですよ、今回のリコール騒ぎは。

とは言うものの、まぁなんにしろ豊田章男さんは、現実対処方法としては的確にやりはったんとちがいますか?大したものだと思います。

ま、てなことで。


しかし

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