ワーキングプア―日本を蝕む病
ワープア問題は、すごく気になっていたので、この「ワーキングプア」という言葉を世の中に知らしめたとも言える、NHKスペシャル「ワーキングプア」の本は、すごく気になっておりました。
で、
「ワーキングプア日本を蝕む病」
http://astore.amazon.co.jp/kids1226-22/detail/4591098273/503-1393334-5299133

と、

「ワーキングプア解決への道」
http://astore.amazon.co.jp/kids1226-22/detail/4591104230/503-1393334-5299133

の二冊を買って読んだのですが、装丁がかっしりした書籍の割に、内容はけっこうあっさりしていて、読みやすく、すぐに読み終えてしまいました。

とくに「日本を蝕む病」の方は、「ああ、映像の人が文章を書くと、こうなるんだなぁ」という感じで、映像として印象的なシーンがいくつも出てくるので、あまり本を読まないような人でも、小説を読むような感じで読めるのではないかと思います。僕としては、論理的になるほど! と唸らされることが少ない感じで少し物足りなかったのですが。

しかし、続けて「解決への道」まで読むと、海外取材が入っていて、ワーキングプアの問題が、決して日本だけの問題ではなくて、グローバル経済というとんでもないものが誕生したことによって、世界中で苦しみが生まれているんだなという事がよくわかります。

日本よりもっとひどい社会格差があるアメリカでは、ワープアがまさにプログラマやSEのようなホワイトカラーの代表というような人のところまで浸食しているという実情を紹介していて、ショッキングです。インドやイスラエルなどのすぐれた人材に、その職を奪われているんですね。まさにインターネットが生み出したワープアです。

日本のワープアも、決して当人にやる気がないとかそういう事ではなくて、社会環境のあまりの急変というのが、相当に大きいようなんですね。生産に関する仕事では、中国の安い労働力に仕事を奪われたとか、あるいは海外から違法労働者が「留学生」「実習生」名目で入国して、それがそのまま「実習」名目で労働している実態が紹介されていて「こりゃ悲惨だな」と思わざるを得ません。そういう安い労働力と闘っていれば、そら疲弊するよなぁって思う。

あと、大変なのは自宅や土地を持っている人。これが悲惨なんですな。いちおう住む場所は確保できているから良いように思うのですが、ただそれだけで収入がない。で、生活保護を受けるべきというような状態なのだけれど、家や土地を持っているから生活保護も受けられないわけです。なにより思い出がつまった家から離れたくないとか、代々受け継いできた農地を自分の代で手放すわけにはいかないとか、そういう思いもあるわけですね。で、そういう人が生活保護以下の暮らしをしている。

ワーキングプアっていうのは、そんなこんなで、みんな「生活保護以下」の暮らしをしてるんですよね。

で、日本人は、この問題の恐ろしさを、あまり真剣に考えてないんじゃないか? というところがあります。

この問題は、アダルトチルドレンの問題と同じで、遺伝のように、格差そのものを、子供が引き継いでしまうんですよ。世代継承されてしまうんですね。

で、恐ろしいのは、こういうものが世代継承されると、それは一つの固定化された層になるという事です。「貧困層」という固定化された社会階層が日本に固定化して生まれてしまう、という事なんですね。

で、これは、「可哀想だからなんとかしてあげないといけない」というような甘っちょろい話ではないわけですよ。貧困層は、そういう一定層があるという事が原因になって、さまざまな社会不安や問題を誘発する温床になるんです。

貧困層は勉強や学習をしている時間的ゆとりも精神的ゆとりもありません。将来を考える、という先読みして動く発想そのものも生まれてこないんですね。それは社会が教えていないから身に付いていないのであって、当人たちに「なんとかしろ」と言っても、それは無理なんです。

で、そういう不勉強は、たとえば不健康につながり病気を産みます。もうそれだけで、医療費がとんでもなく跳ね上がります。国家の財政に影響を与えかねないほどに。
また、貧困は犯罪の温床でもあります。ほったらかしにしたら、どんどん凶悪犯罪が増えて、その対策費が、これまたどんどん必要になってしまうわけです。

じゃぁどうしたらええねん? っちゅう事ですが、ここを日本の政治は全然考えていないわけです。対応策がない。この二冊の本を読むと、とくに「解決への道」ですが、海外の、日本より状況が悪い国(アメリカ・イギリス・韓国)では、とにかく効果が期待できる対策が取られてるわけです。

でも日本では、全然そういう対策が取られていない。なにより、ワーキングプアの問題が「自分に関係のある問題なのだ」という風に考えていないのが困りものです。

●貧困層の世代間固定。

こんな恐ろしい事がありますか?
僕は本当にゾっとする。

人間は、正しく「学ぶ方法」を身につければ、健康で快適な生活を営む知恵を身につけられるんです。その方法を身につける機会を失ってしまってるから、こういう貧困層が拡大してしまう訳ですが、そういう人たちは、前から言ってるように、自分たちの物事の捉え方や考え方が「悪い癖」になっていて、それでそういう状態になってしまっているのだ、という事を「直視」できないわけです。これはもうそういうものなんだからしょうがないと思う。環境やら何やらが、彼らをそうさせてるのですよ。彼らが悪いのではない。

だからこそ、なんとかこの問題を解決する仕組みを作らないといけないんですね。

貧困層の固定化、という事を考えると、本当にいますぐ解決への対策を考えないとヤバイという気持ちになります。

たとえば、ニューヨークでは、一時期、落書きが流行して、ニューヨークのストリート系の文化とまでもてはやされたりしてましたが、ああいう「落書き」こそ、実は貧困や犯罪の大きな原因になってたんですね。(これはこの本に書いてあった話ではなくて、この15年くらいの間に起きた一般的話題です。)
ニューヨークの犯罪率がものすごく高かったので、誰だっけ? NY市長が徹底して落書きの撲滅をしたら犯罪も減った、という話なんです。

小さい事をないがしろにしない。

という事なんです。

これは「割れ窓理論」とか「ブロークンウィンドウ理論」と言って、軽微な犯罪をこそ徹底して取り締まることで、大きな犯罪の誘発を未然に防ぐことができるという理論なんですね。で、かなり効果があるようなんです。

だから、ワープアの問題を「私とは関係ない」と思ってはいけないのですよ。

僕は前々から「派遣という業務形態をやたらと拡大することは問題だなぁ」とは思っていたのですが、それがワープア問題にまで一直線に直結するとまでは考えていなかったんですね。でも、現実は坂を転がるように急速に悪くなっています。

だから、もう、本当に、いまなんとか手を打たないとまずい、というくらいに大問題なんですよ。これは。

で、このあたりは、単にグローバリズムの台頭というだけではなくて、日本人が、「和」の文化を持っていて、それは「個」の文化とは相容れないという大きな問題があるよなぁとつくづく実感せざるを得ないんですね。

個人主義というのは、英語ではindividualismと言って、in、divideな、という意味なんです。つまり、これ以上分割できない最小単位、ってことです。

で、この個人主義が成り立つのは、一神教で個人が神さまとつながっているからなんですね。この神とのつながりがあるからこそ、「社会」は成立するんです。

しかし、日本は個人主義はありません。一神教ではないので、社会の最小単位は「最低二人」から始まる「和」なんですね。「輪」です。
三人でも四人でも五人でもいいけど、とにかくお互いに顔を見合わせている「輪」の関係こそが社会であって、それ以外に「社会のあり方」があるなんて、想像することすらできないのですよ。

しかし、この「和と個」の違いは、会社で使っているグラフ用紙が、5mm方眼なのか、3mm方眼なのかというような違いでありまして、簡単に吸収はできないんですね。欧米の文化をそのまま移植しても、そこにある3mm単位の細かい方眼線の存在に、日本人は気付けないわけです。

だから社会の仕組みにモレとかヌケが出てしまうんですね。

この本で言うと、取材班がアメリカに行って気付くのは、宗教団体などが社会活動として行っている炊き出しとかが、どれほど世の中を下支えしているか? という事なんです。政治以外に、キチンと機能する社会的集団があって、それが力はなくても最低限の必要な対応はしているという事なんですね。

これ、まさに「個」だからできる事なんです。「和」では難しい。普通に働いてる人が、まったく個人の立場からボランティアに回るのが普通になってる。ひとりひとりがバラバラだから、逆にこういう事ができるわけです。
で、大事なのはそこに大前提として、「神の前にはみな平等」という常識があるからこそできる事なんですよ。

日本人だとそうは行きません。「和=輪」から外れてしまうと、小林よしのりが言うところの「砂粒の個人」になってしまって、社会とのつながりそのものが消滅してしまう。「個人として社会に関わる」というモチベーションや発想そのものが生まれないし、生まれたところで、とんでもなくモロく、壊れやすい。

だから、このワープアの問題は、そう簡単な問題ではないのです。

アメリカなら、そのように、個人として関わってきた人たちが「この問題では、こういう対策が必要だなぁ」という事を具体的に実感していて、そして実際に「とにかく自分たちでやれることはやろう」と実践していて、で、その実践結果をもとにして、政府などが「じゃあ、その運動に補助金を出そう」とか、「その仕組みを公的に行おう」というような形につながっていくわけです。

でも、日本だと、個人で動いても個人で動くという事自体が、ものすごく強い意志を必要としてしまうわけです。
だから、この手の問題は、すぐに官僚が「机上の論理」で対応策を作って、それで効果が全然出なくて、で、どんどん状態が悪化していくって事なわけですね。

というような事なので、まずみなさん、とりあえずこの本は読んでみてください。
どうしたらいいのかわからないけど、とにかく実情を正しく知るというのが、何より重要な事のはずなんです。

そのあと、個人的に動ける人は動けばいいし、動けない人でも、政府の対応の善し悪しくらいは判定できる。(実情の確認ができてないと善し悪し自体が判定できないのです。)

と言うことで、この本は必読ですね。
大急ぎで、読みましょう。

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