知るよろこび。

2008年1月12日 読書
痛快!憲法学 ― Amazing Study of Constitution & Democracy
http://astore.amazon.co.jp/kids1226-22/detail/4797670312/249-9767057-8485143

ふと、自分の日記を見てみると、どうもこの小室直樹の痛快!憲法学そのものの紹介をしてないようなのですね。
自分で驚きました。

なんせ、この10年でみても、もっとも感銘を受けたというか、勉強になった、エポックメイキングな書籍だったから。

アマゾンでの評価も非常に高いですし(38人の評価があって、星5点満点で4.5)、この本はその後に「日本人のための憲法原論」というタイトルで愛蔵版が出てます。実際、再販する価値は高いです。本当に良い内容ですから。

日本人のための憲法原論
http://astore.amazon.co.jp/kids1226-22/detail/4797671459/249-9767057-8485143

で、再販されたこの「憲法原論」は、僕もこの「ひとよみにっき」で紹介してるんですよね。

http://diarynote.jp/d/12917/20070213.html

でも、どうも、肝心の自分が読んだ「痛快!憲法学」は紹介してなかったみたいなんです。いや、正確には買って読み始めた時には一度紹介してるんですけどね。

http://diarynote.jp/d/12917/20010515.html

でも、このころはまだ、ここに書籍紹介の機能とかなかったもんなぁ。

ともあれ、この本は読みやすくて面白くて、そのくせワールドワイドな「世界の常識」が、手に取るようにわかるので、超おすすめです。もちろん愛蔵版のほうの「憲法原論」も内容は同じなので、同じく超お勧め。どっちを読んでも良いです。

この本が読みやすいのは、「無知なる編集者シマジ」という対談相手が出てくるところですね。何かの雑誌連載だったのかなぁ?
とにかく、無知なる人間が「よーわからん」と質問をするので、そこで碩学たる小室先生が「よろしい、ではわかるように教えてさしあげよう」と細かく解説をする、という構造になってるんですね。そこが、この本の価値を何倍にも高めてるんだと思います。

難しい話でも「ああ!そういう事だったのか!」と染み入るように頭に入ってきて、本当にね、「知るよろこび」というものを実感できるように作られてるんですよ。

「そうですか。知らないのですか。それなら仕方ないですね。わかるように教えて差し上げます。」

という感じです。

知り合いに、良く本を読まれる年長の先輩がおられて、ちゅうか私のコピーライティングの師匠っちゅうか、昔上司だった方なんですけど、毎週一冊は何かしら読んでおられるので、この本をお薦めしたら、やっぱりすごく高評価でした。「おもしろい!勉強になった!」と感激しておられた。ちょうど一回り上の方なんですけどね。偉いよなぁ、年下の人間から勧められた本を素直に読まれるのだから。敬服してしまう。

数ある小室直樹の書籍の中でも、おそらくこの本が最高傑作だろうと思われるのですね。タイトルの通り「憲法」について語ってるわけですけれど、憲法の概念やら意味を、それが生まれるに至った欧米の歴史やら宗教との関連やら、社会学の基本やらまでふまえて幅広い視点から、あますところなく語っておられる。

この一冊で、おそらく小室先生の書籍3冊から4冊分の内容が凝縮して入っていると言っても過言ではないと思うのです。

考えてみるに、小室直樹という人には、僕は、この本を含めて3回、仰天させられています。

一度目は、「ソビエト帝国の崩壊―瀕死のクマが世界であがく」という書籍。

ソビエト帝国の崩壊―瀕死のクマが世界であがく
http://astore.amazon.co.jp/kids1226-22/detail/B000J8688G/249-9767057-8485143

調べてみると1980年に出てるんですね、この本。しかも小室直樹のデビュー作だそうですが、これを僕は、出た時に読んでます。

1980年というと、ゴルバチョフ書記長の就任が1985年なので、ペレストロイカがはじまるはるか前です。、そういう時に「ソ連崩壊!」とやったわけですから、実に大胆だったのです。
確かソ連がいろんな国に侵攻したりして危険な感じがあったから、僕は書店で手にしたんだと思うのですね。

しかし、実際、1991年にソ連は崩壊しましたからね。それを小室先生は10年近く前に的確に予測してたんです。はっきり断言してたもんなぁ。すごいです。やっぱり小室直樹は。

ただ、この書籍を読んでから、ソ連が崩壊してロシアになるまでに随分とタイムラグがありましたので、僕としてはその凄さを完全には実感できなかったんです。「なんかソ連崩壊を予測してた人がいてたなぁ。誰だっけ? 小室直樹だっけ?」という程度の感じでしょうか。

その後も時たま小室先生の本は読んでたように思うのですが、あまり記憶がなく、次にびっくりしたのは、

「信長の呪い―かくて、近代日本は生まれた」

http://astore.amazon.co.jp/kids1226-22/detail/4334005179/249-9767057-8485143

でしたね。

僕の祖父という人が平成になる前、昭和の終わりになくなったのですが、その祖父がよく「徳川家康を読め。」と言ってたんですね。山岡荘八の「徳川家康」が全巻うちにはあったんです。

しかし、僕はとにかく「歴史」というのが苦手で苦手で、避けて通ってたところがあったのです。なので祖父が死んでから「ちょっとは歴史も学ばなくては」と思ったのですが、山岡荘八の徳川家康って全部で28巻くらいあったんですよね。「こらしんどい」と思ったので、短い方の「織田信長」をまず読んだわけです。山岡荘八版のを。

そしたら信長という人がやたらと面白くてですね、はまってしまったわけです。で、そこから信長に関する書籍を次から次へとどんどん読んだ。多分10冊以上だと思いますね。小説も司馬遼太郎の「国盗り物語」も津本陽の「下天は夢か」も読んだし、戦記としての資料本とかも読んだわけです。

その最後にたどりついたのが小室直樹の「信長の呪い」でした。

これは前に、この日記でも一度紹介してます。
http://diarynote.jp/d/12917/20050102.html

小室先生がこの本で言っていて「わ!すごい!」と驚かされたのは「桶狭間は『はざま』での戦いではないですよ。『山』の上の戦いですよ。」という事です。

桶狭間の戦いと言えば信長ものの定番ですから、いちばん華やかなトピックなわけですが、これを山岡荘八は、「桶狭間の谷で休んでいた今川義元を信長は山の上からの奇襲で射止めた」という描き方をしてるのです。で、多分、司馬遼太郎も津本陽もよく似たような描き方だったと思うのです。(このあたりはちょっと記憶があやふや。津本陽は違ったかもしれません。)

とにかく桶狭間と言えば「はざまに山から攻め込む信長」という感じで描かれる、表現されるのが普通だったんです。

でも、もっとも信用に足る一次資料である「信長公記」(しんちょうこうき)には、ちゃんと「おけはざまやま」と書いてあるわけです。「やま」ですね。明確に。「信長公記」というのは、信長が死んだ時に信長に仕えていた人だったかな? そういう人で、昔の事を思い出しながら(人に確認しながらかもしれない)書きつづったのが「信長公記」でして、もっとも信頼に足る資料なわけです。

で、それはもう有名で、いろんな資料本にも、必ず「信長公記」という名前は出てくるわけですよ。
なのにみんな、桶狭間と言えば「はざまに山から攻め込む信長」だったわけです。
一番大事な一次資料の読み込みをやってない。そういう事なんですね。でも小室さんは学者ですから、そういう基礎的な事を、まずキチンとやっている。それだけの事なんですけど、それが実はすごい。

「多くの方は『狭間』という単語から、義経のひよどり越えと勘違いされたのでしょう。」ってなもんです。
そうです。義経のひよどり越え。馬できつい傾斜の斜面を駆け下りて攻め込んだ「奇襲」です。それと区別がついてなかったわけです。なんてええかげんやねん!てなもんです。

でもまぁ山岡荘八とかは小説家だしねぇ。ドラマチックにするためには、多少誇張とかしないとどうしようもないし、それで筆がすべってしまったんでしょう。
でも小室先生は学者ですから。「歴史資料は、まず一次資料の読み込みです。」と、別に何の躊躇もなく、ストレートに世間の間違った常識をひょいとひっくり返してしまわれたわけで。

もう、それだけでも僕は目うろこでしたから。「そそそそ、そーだったのか!」です。まさに「知るよろこび」です。信長の時代では、野営は山の上に陣を取るのが常識だったそうです。そりゃそうですわね。敵がどこから来るかとか見張れるんだし。わざわざ谷間で休むわけがない。(笑)

「でも、だからこそ、桶狭間の戦いは信長の見事な奇襲だったのですよ。」と小室先生はおっしゃる。「そんな堅牢で攻めにくい山の上の敵陣に正面突破で突っ込んでいくなど、正気の沙汰ではないのです。そこが信長のすごいところだったのですよ。」と、こう解説をされるわけです。

山の下にいる信長は、自分たちの手勢がどの程度なのかも今川方にバレている。だから普通の武将なら攻め込むこと自体をしない。なのに平気で突っ込んでいった。そこが奇襲なのだと小室先生は分析される。今川方もあまりの非常識に虚をつかれて対応が後手に回ったのだ、という事なんですね。

「あああああ、なるほどー。」でありました。

いや実際しかし、「信長公記」を見ると、そうとしか読めない記述ばかりなんですよねぇ。読み手が勝手に「はざまやま」を「はざま=狭間=谷間」と誤解しただけの話でして。

とにかくこれに僕はもうびっくりしまして。「世間の常識がいかに怪しいか」「一次資料にあたる事がいかに重要か」という事を思い知らされたのであります。さすがは学者だなぁという、学者の真骨頂ですね。

で、小室先生は「信長の呪い」で、「近代日本が廃藩置県によって、すみやかに体制移行が行えたのも、実は信長の時代に天下統一を目指した政治体系を作り上げていたからである。明治政府の基礎を作ったのは信長である。」と結論づけているのですね。

ま、単純に言えば政治体制としては、徳川300年というのは、何の変化も進化もなかった空白の時代だったってだけの事なんですけどね。でも、それが我々の国のありのままの姿だって事です。

ま、そんな事で、「ソ連」「信長」と二度びっくりして、それからこの憲法学で三度目のびっくりに遭遇したわけですが、そんなこんなをひっくるめても、この「痛快!憲法学」は飛抜けて面白いし、「ソ連」「信長」を超える出来の良さなんです。
わかります? 「ソ連」「信長」を超えるんですよ? この「憲法学」は。そのくらい、この本は良い出来です。

先日から、「今月読んだ本」というのを紹介してますけど、そういう流れの中で「去年読んだ本の中からベストテンでも選ぼうかなぁ」とか考えてたら、「それよりも、この十年で感銘を受けた本を何冊か紹介した方がいいよなぁ」と思いまして、で、いろいろ考えていくと、どーーーーーーーしてもこの「憲法学」が1位になっちゃうんですよねぇ。

どーーーーーーーしても1位なんよなぁ。ほんとに。ほんとうに価値ある本だと思います。他の本は読まなくても、この本だけはぜひ、って感じですねぇ。

憲法とは何か? という学問的な基礎の部分から始まって、民主主義が生まれてきた欧米の体制変化の流れや、第二次大戦など大きな戦争が生まれてしまったその背景、経済の仕組みの基礎的知識、社会学の基礎、宗教に関する基礎知識などなど、欧米文化を日本人が「せめて骨格だけでも」理解するのに役立つ知識、補助線的解説が山盛り入っているわけです。この「憲法学」には。

この一冊を読むだけで、欧米文化理解における「狭間を谷間と思いこんで読み間違うような、無知や思いこみによる勘違い・間違い」をかなりのところまで矯正できるんですね。そこが本当に素晴らしいのです。本当に素晴らしいのであります。

だからやっぱり「十年に一冊の名著よなぁ」と思って、自分のブログでどう紹介してたかな? と検索してみると、驚くべき事に、あまりキチンと紹介してないわけですよ。この重要な本を。

「ああ、俺ってバカだなぁ」であります。
こんなに知るよろこび、「なるほどー」と精神の安定を与えてもらえた名著に関して、「自分の喜び」の部分をちゃんと記していないのが、けっこう恥ずかしい事だなと分ってきたので、それをどうしても書きたくなったのでありました。

とにかく名著です。読んで損はないです。「痛快!憲法学」の方は、たぶん絶版で、もう買えないと思うので、「日本人のための憲法原論」で良いですから、勉強したい方はぜひぜひに。

てなことでした。

2008/01/12 12:33 追加-------------------

ちょっと気になってmixiでの評価も見てみたら、みなさん実に的確にほめてる。ほめ方がすごく正しかったので、勝手に抜粋して紹介してしまいます。このくらい短ければ引用しても許される範囲でしょうし、みんな「読むべし!」って人だから引用しても「どうぞどうぞ」と認めてくれるでしょう。(シゲ)

(書評抜粋開始)---------------------
●今までの常識が覆る。 驚きの連発。
憲法学という難しさはなし。 明日を見る目が変わる。

●痛快です。(5点満点だけど)星、8つぐらいあげたいです。

●世に改憲、護憲と情緒的な論議ばかりが目につきますが、
そもそも憲法とは何か、民主主義とはどういうものかという基本的な
事柄の理解がなければ、考えたつもりでも
ステレオタイプな見方しか生まれません。

●すげぇ〜面白い本!
本格推理小説本みたいなナゾナゾ満載!
自分の無関心と無知のあり様にことさら懺悔。。

●とても解り易い憲法入門書。冗談も入れながら面白く、楽しく読めるぜ!
これを読めば憲法は大体理解出来る!

●読みやすさという点でも、高校生ぐらいの読解力があれば楽に読めるはず。
#個人的には、高校で学ぶ現代社会に取り入れて欲しいくらいの内容です。

●本当に面白いです!正直、この本読んだら法学部行きたくなると思う。
法律や憲法なんて難しくてわけわからんもの…そんな風に
考えてる人はゼッタイゼッタイ一読する価値がある本。

●憲法について知りたいなと思って、俺と同じように何の知識もないとこからはじめたい、という人には、最高におススメの一冊です!

●2007年度の現時点で読んだ中で もっとも面白い。
今までの「常識」が こんなにも「真実」と違っていたのか。
今まで、あまりに知らない自分がいた ことに気がついた。

●面白い。ギャグではなくいたって真面目な本なのですが、
この作者が天才すぎるのでしょうがないです。

●読みやすいし、面白い!

●これは憲法解釈の本ではありません。憲法そのものの本です。
結構面白いよ。憲法は私たちの味方であり、武器なんですね。

●わかりやすーい
公民の教科書にしませう

●憲法の本で唯一感動した。
小室さんの本を読むと間違いなく賢くなれる。

●小室直樹の著書の中では一番面白いと思う一冊です。

●「憲法を語るとは人類の歴史を語るに他ならない」
という大きな視点が魅力

●これまで読んだ本の中で、自分に与えた影響の大きさでは5本の指に入る。

●まず"憲法とは何なのか”っていうところから勉強しないと議論にならない。

●素晴らしい!
全ての日本人が読むべき本だと思う。

●学生時唯一三度読みかえし、これで 憲法は優取れました。

●憲法とは何か?民主主義とは何か?これほど分かりやすく、
面白い本はないだろう。憲法についてかかれる本の多くは、
何が言いたいかわからない本ばかりの中で、民主主義の誕生・
憲法の誕生・法の誕生を歴史を振り返って、一つずつ丹念に
論じてくれる。

●表紙はそれこそきわものだけど、思うに中身は今まで読んできた
どんな憲法の教科書よりも優れている。有名なエリート政治家養成所、
松下政経塾でも教科書に使われたとか。

●社会学は歴史(…もっと言うと成立した時期の思想)の
理解無くして体得できない

●私は憲法の解説本をたくさん読んだが、 この「痛快!憲法学」を
超える本はなかった。 断言できる。必読の本である。

(書評抜粋終わり)------------

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