Video Game カプコン 2007/04/12 ¥5,040

かの超名作の「逆転裁判」シリーズの続編です。逆転裁判1〜3までがひとつのお話しで3部作として成立しておりまして、今回は主人公や登場人物まで変えて、「新章開廷」と銘打って登場した作品です。

もともとはゲームボーイ用のソフトで私は逆転裁判1〜3は全部、大興奮で遊んだものです。ゲームボーイは持ち歩きできますから、電車の中でやったりして、たいていは仕事の合間に1週間とか2週間でやり終えてたんですね。その間、大変幸福でありました。

で、逆転裁判1〜3が人気だったので、時代が変りニンテンドーDSになってから、DS用にリニューアルされた「逆転裁判1」(正式名称は「逆転裁判〜蘇る逆転〜」)が発売されたのですね。それが去年。これがまったく同じ内容かというとそうではなくて、ニンテンドーDSのタッチペンなどの機能を使った新しいストーリーがオマケとして1話追加される形で発売されていたわけです。

正直、逆転裁判1〜3の出来が、あまりに良く、奇跡のようなバランスを保っていたシナリオだっただけに、DS版のオマケシナリオには、あまり期待していなかったのですが、このオマケシナリオをやるためだけにDS版逆転裁判を購入。で、やってみると、オマケシナリオの出来が素晴らしかったんですね。

「おお、これは良い!」という内容。
普通、トリロジーが終わった後にそれを超える作品とか、なかなかできるものではないので、すごいな、これはと思ったわけです。

なので、この「4」も、4月12日発売で、記憶では4月15日くらいにいきおいこんで買ったわけです。超期待!ですよ。

ですが、やっていくうちに、日々どんどんやる気が失せて、ひと月以上かかって、やっと昨日終わりました。

なんだこりゃ? って気分がとても強いんですねぇ。なんだかちーとも感激できん。

どうしてこんなに面白くないのかと思いながら、ゲームの終わった後で出てくるタイトルロールを見ていると、1〜3のシナリオを書いておられた巧舟(たくみしゅう)さんの肩書きが「原作・監督」になっている。

「シナリオじゃない!!!」

なにそれ。

別人の作品?

それなら、この違和感は分るんだけど。

ああ、そうか、逆転裁判はカプコンの中でも人気シリーズになっちゃったから、セールスのために別チームでも作るという事にしたのかぁ、と事情が読めてきたのであります。

実際すでに30万本をセールスしていて、シリーズ最高の販売数になっているようです。

カプコンという会社はもともとシナリオには力を入れている会社でして、昔、「ゲーム用のシナリオライターというのを育成せねばならん!」と、フラッグシップというシナリオ専門の子会社まで持っていたのですが、この10年のゲーム市場の縮退で、子会社はカプコン本体に吸収されたんですね。

そんな事情もあって、巧さんに書かせるのではなく若手のライターに書かせるとかしたんじゃなかろうかと、想像してしまうわけですが。

内容的にはニンテンドーDSの機能をふんだんに使っていますし、表現ノウハウも蓄積していけるだろう、若手も育つし、セールスも良いと、悪いところはないわけですが、いかんせん、シナリオがグシャグシャになってしまった。

まぁ、しょうがないとは思うんだけど、今回は本当にシナリオが問題。

従来の逆転裁判シリーズでは、

●検察と弁護側の対立構図

というのは、当たり前ですが絶対に崩していなかったのですね。シリーズ後半になって、登場人物同士の心の交流が生まれて、弁護側と検察側が一体になって真実を追究するというような、「お話し」独特のウソも多少はありましたが、それでも検察・弁護の対立構図こそが法廷というシステムの基礎ルールなのだから、そこは絶対に外していなかったんですね。

検事が弁護士と同様の意見で事件を追及する時はものすごく逡巡していたし、何より「俺の立場からは、この意見は言えんのだ、おい弁護士、お前が気付かないでどうする。気付け!」というような、立場を守りながらも、ギリギリの線で「協力」するという構図だったわけです。そこがまた面白かった。

法廷の対立構図というのは、論理的に事件を追及する上での基本構図、基本理念、ルールなわけですから、そこを崩したら法廷システムそのものが破綻する。それはできない。そういうことなんです。

ところが、今作の新しい検事キャラクターは「真実追究こそが大切なのさ!」と検事側なのにあからさまに弁護側に立ったりする。

なんじゃそりゃ?
なわけですよ。
法に対する理念もへったくれもない。
真実なんかわかるわけがない。だからこそ、弁護側と検察側が立場を違えて徹底討論するから意味があるのであって、「真実らしきもの」に向かって弁護側も検察側も突き進むなんてのは「冤罪生産装置」にしかならないわけですよ。本来。

このあたりのシビアさがなくてつまらないわけです。今回の4は。

従来の1−3は、霊媒師が出てきて死人がよみがえって証言するとかありましたけど、そこまでフィクションをやっても破綻しなかったのは、この厳格な法廷システムをシナリオの上で厳守していたからなんですね。

また、どんなに無茶なシナリオだ、と思っても、必ず「証拠で語る」という手順は外さなかった。事実に語らせる手法ですね。そこは絶対に外さなかった。だから霊媒師が出てきても、検事が弁護側と協力しても、ギリギリの線でバランスしていたわけです。

「法」に対する正しい理解があったと思うのですよ。

でも、今回の4にはそれがない。これは決定的というか致命的なミスだろうなぁ。

なにより「なんじゃこりゃ」と思ったのが、今回新たに登場したシステムで「現在と過去を行き来できる」というのがあるんです。

ストーリーを複雑にしすぎてしまって、法廷ドラマだけでは整理しきれなくなったのかもしれませんが、よくよく見てみると、現在の時点で、過去にさかのぼり、過去の人物から「証拠品」を得て、現在の法廷に出す、とかしてるんですね。

うーん。

いや、その。

「過去に起きた事件の重要な証拠」を、どこで見つけるか? とかこそが、物語としての醍醐味なんと違うの?って思ってしまうんですなぁ。

なんでそこを、こんなにあっさり味にしてしまうんだと。

で、「証拠品に語らせる」というのは「実際に起きた事実をこそ重視する」という絶対的なルールで、この表現方法は、その重要な点を完全にスポイルしてしまうわけですよ。
証拠品を見つけるのにタイムマシンを使いましたとか、そういう話にしかなりませんからなぁ。

で、今回、もっともガックリきたのが「裁判員制度」。

なんちゅうか「裁判員制度バンザイ」みたいな形で、法律はあなたの気持ちで変るのよ、みたいな事を言ってるのが情けない。

このあたりは、映画「それでも僕はやってない」を見て、日本の司法の杜撰さ、ひどさに怒りまくり、なおかつ日本の「裁判員制度」が、いかに骨抜きで、本場の「陪審員制度」と大きく異なるのか、「裁判員制度」とは名ばかりで、実際には「話題の裁判」だけを、「裁判官が一般の裁判官をリードする形」で判定する、まさに「カッコだけのシステム」なのだ、というあたりを、知っている僕としては、全然わかってないよなぁと憤慨するしかないわけで。

ちゃんと裁判員制度がどんなものなのかとか、調べとけよな。
あれはかなり怪しい制度なんやぞ。ほんまに。
って思う。

考えてみれば巧舟のシナリオは、事実と証拠に基づくディベート(反論しあう事で正否両面からキチンと検証するやり方)を、ディベートの意義や重要性を理解してない日本人に分らせた、という意味ですばらしかったのだなとつくづく思うのです。

ようは日本人全員に「これを学べ!」と挑戦していた気概があったわけです。

でも、今回の逆転裁判4には、それがない。あるのは「裁判員制度で民衆の意見を入れるのが正義だ」という、つたない、幼稚な判断で終わってるってだけで。

まぁゲームですから。幼稚でも良いと言う言い方はできるのかも知れませんけどねぇ。

まぁ、このまま「5」が出るなら、もう、やる必要はなしだなぁ。
頑張ってるとは思うんだけどねぇ、「4」。
でもダメだね、これは。

僕的には「逆転裁判4」は、ストレートに映画「それでもボクはやってない」ですな。あれこそが正しい「逆転裁判トリロジー」の続編です。

で、あの映画ですら「裁判員制度」にすごく期待してるフシがありましたけど、「裁判員制度」は司直の民衆操作制度にしかならねーよ、いまのままじゃ、って言うのが僕の危惧するところですね。

やっぱり、日本人には論点をキチンと対立させて事実をあぶり出していくというような方法論自体が無理なんだろうなぁって思うだけで。
国の成り立ちが欧米とは異なりますからなぁ。
はてさて。どうしたものかと情けなくなるです。

ともあれ、これは「裁判」ではなくて、幼稚なゲームのためのゲーム。お子様向けアニメです。

まぁ巧舟さんも、もうしばらくは書けんやろうしなぁ。こうするしかなかったと思うから、文句は言いませんが。

逆転裁判1〜3で、「裁判」というシステムを正しく理解した人は、ぜひ「それでもボクはやってない」をご覧ください。

そして、日本の司直がいかに歪んでいるかを、その目でお確かめいただきたいです。

その方が、はるかに意義があるし、おもしろいです。本当の意味での「4」が、そこにあります。

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